―増え続けるぜん息患者と新たな救済制度へ―

パンフレット「新たな大気汚染公害被害者救済制度の創設を」

●被害者の訴え

一日も早く救済制度を

原田 真吾さん

 私は川崎市川崎区に住む原田真吾42歳です。ぜん息になって6年になります。
 はじめは咳が出る程度でしたが、だんだん病状が悪化して、頻繁に発作が起こるようになりました。発作が起こると呼吸ができなくなり、咳が止まらなくなりました。病院に行き治療を受けても、お金がなく薬を買えないこともありました。川崎市には医療費を助成してくれる制度があることを知り、すぐに手続きをしました。助成が受けられるようになり、経済的負担が軽くなり、そのおかげで、定期的に治療も受けられ発作の回数も減りました。
 「どうしてぜん息になったのだろう」「なぜ、自分が苦しい思いをしなければならないのか」考えました。ぜん息の原因は、自動車排ガスによる大気汚染であることを知りました。原因を作りだし、放置してきた企業と国は、自らの責任を認め、一日も早く被害者の救済制度を作ってほしいと思います。

医療費助成で症状改善

渡辺 岩根さんの訴え

 1988年、私は48歳でした。ぜん息の発作が頻繁に起こるようになり、会社に出勤しても仕事ができないことも多くなりました。
 入退院の繰り返しに2年間で50日しか出勤できない状態で、平成2年にとうとう会社を解雇されてしまいました。
 働くこともできなくなり、ぜん息発作は重くなる一方で、わずかな退職金と預金も瞬く間に底をつきました。妻は必死で働き、まだ学生だった息子二人もアルバイトをして生活費を入れてくれました。
 医師から「あなたのぜん息は難治性で治らない」と言われたこと、次男が進学をあきらめ働きに出たことは、父親として一番辛いことでした。
 2008年8月から東京都の医療費助成を受けられ、医療費負担から解放されました。お金の心配をせずに点滴にも通えるし、薬も医師の指示通り使えるようになり、症状は改善しました。一日に数時間ですが、アルバイトもできるようになりました。
 医療費助成を受け、家族の負担が減ったことは発病して初めて嬉しいことでした。

●そらプロジェクト…やはりクルマが犯人

鳴りもの入りのそらプロジェクト

 2011年5月に公表された環境省の大規模健康影響調査=そらプロジェクト、これは、1988年公害健康被害補償法の新規救済打ち切りの際の宿題であり、この間、道路管理者としての国が公害裁判で5連敗した際、救済制度についてはこの調査の結果をみて判断すると言い続けた鳴りもの入りの調査でした。

自動車排ガスの影響明らかに

 そらプロジェクトに、この間6年の年月がかかったのは、学童コホート調査があったからで、学童・幼児・成人の各調査の中で、大気汚染の健康影響を検討するうえで、デザインとして最も優れているのは、学童コホート調査です。
 そして学童コホート調査の中でも、自動車排ガスの主成分であるEC(元素状炭素)およびNOX(窒素酸化物)の個人ばくろ量とぜん息発症の関連性を検討した研究が最も重要で、この中でEC、NOXともに関連性が認められたことは極めて重要で、自動車排ガスの影響が明らかとなったのです。

もう逃げられない国

 これまでの大気汚染裁判で、国は1度きりの断面調査、あるいは個人ばくろ量をみていない調査では因果関係は評価できない、つまり、コホート調査(発症率調査)で、かつ個人ばくろ量との関連をみる調査でないと因果関係は評価できないと一貫して主張してきました。ところが、今回の学童コホート調査は、まさにこれをクリアするもので、そこで自動車排ガスとぜん息発症の関連性が認められる結論が得られたのです。
 ということは、裁判の場では既に因果関係ありということで確立されていた自動車排ガスとぜん息発症との関係が、もはや、従来の国の主張をもってしても逃れられないまでに明らかになったということです。

●PM2.5汚染の元凶=自動車

以前から深刻なわが国のPM2.5汚染

 この間、連日のように中国の大気汚染問題が報道され、PM2.5(微小粒子)汚染のわが国への影響が論じられています。
 PM2.5は、直径2.5ミクロン以下の微小な粒子のことで、欧米では早くから注目されてきた汚染物質でした。わが国では、各地の大気汚染公害裁判を通じて環境基準の検討が約束され、やっとのことで2009年9月に環境基準(年平均値15μ g/㎥、日平均値の98%値注35μg/㎥)が設定されました。
 最近になって、中国での高濃度汚染や西日本での中国からの飛来汚染が報じられていますが、それ以前から、わが国では欧米に比しても濃度が高く、2011年度の東京都における測定結果でみても、自動車排ガス測定局(沿道)12局中全てが環境基準オーバー、一般測定局(非沿道)16局中、基準達成はたったの2局のみで残り14局は基準オーバー、しかも短期基準の日平均値のみならず、長期基準の年平均値も含めて、いずれも環境基準をオーバーするという惨たんたる結果となっていたのです。

まずもって国内の自動車対策強化を

 PM2.5は直径2.5ミクロン以下の細かい粒子のため、体の深部に入りこみやすく、気管支ぜん息、肺がん、循環器疾患(脳梗塞、心筋梗塞)などをひきおこす危険な大気汚染物質です。
 中国からの飛来汚染ばかりを強調する前に、もともとひどい国内由来のPM2.5汚染の対策、とりわけその中でも大きな割合をしめる自動車、ディーゼル車対策を強化することが急務となっています。

ごまかしは許されない

 一方、調査対象者を幹線道路沿道地域から選定し、また汚染濃度のとり方も幹線道路からの直接的影響を把握できる手法をとっているのは、学童調査以外では、成人調査だけです。
 その成人調査で、大気汚染の影響を見出しやすい非喫煙者に限定した解析において、大気汚染と気管支喘息発症率との関連性が見出されたことは、大変重要な意義があります。
 環境省はそらプロジェクトについて、関連性が見出されたのは学童調査のみで、その他の成人調査、幼児調査では関連性が見出されなかったので因果関係を導くことができないかの説明を行っています。
 しかし学童調査と並んで幹線道路からの大気汚染に焦点をあてた成人調査でも、大気汚染とぜん息発症との関連性が見出される重要な結果が得られているのです。
以上からして、そらプロジェクト全体としてみると、幹線道路からの大気汚染に焦点をあてた学童調査、成人調査の結果からして、自動車排ガスによる大気汚染と気管支ぜん息発症との因果関係が明らかになっているということができるのです。

  学童調査 成人調査 幼児調査
調査対象者 幹線沿道地域 幹線沿道地域 一般地域
濃度(幹線道路からの直接影響把握) ×
結果(関連性の有無)

●救済制度でぜん息症状改善

患者アンケートでもプラスの変化明らかに

 川崎市、東京都など自治体が先行して実施している医療費救済制度で大きな成果が生まれています。

朝日新聞喘息シンポでも国での制度創設求める声が

 この間開かれた朝日新聞社主催の喘息シンポジウムでも、「住んでいる自治体によって違うのは不平等ではないか、国による全国一律の制度に喘息患者さんが多い市町村ではそれに上乗せした制度を作っていく、そういうミックスした制度が必要ではないか」(松沢成文前神奈川県知事)、「公費助成が無くなるようなことになりますと、受診抑制・治療薬の自主カットなどを招き、適切な治療が受けられない事態となりかねない。自治体間に差があることは、やはり問題だと考える」(武川篤之認定NPO法人日本アレルギー友の会副理事長)などの発言が相次いでいます。

地域医師会も制度後押し

 東京都内の地域医師会からも、東京都の医療費全額助成制度がきわめて大きな効果をあげているとして、制度の維持、継続を求める要請書が提出されており、その数30で過半数にのぼっています。

【要請書提出の医師会】
品川区医師会    蒲田医師会    荏原医師会
大森医師会     文京区医師会   玉川医師会
小平市医師会    八王子市医師会  西東京市医師会
世田谷区医師会   田園調布医師会  板橋区医師会
稲城市医師会    小石川医師会   豊島区医師会
江戸川区医師会   小金井市医師会  三鷹市医師会
調布市医師会    立川市医師会   府中市医師会
武蔵村山市医師会  日野市医師会   国立市医師会
渋谷区医師会    練馬区医師会   荒川区医師会
葛飾区医師会    多摩市医師会   浅草医師会

都の喘息医療費助成制度で重症患者が減った !! ―制度を全国に広げよう―

東京保険医協会副会長 赤羽根 巖(あかはね いわお)

 喘息の本態である気管支の炎症を抑える吸入薬が、近年開発され効果をあげている。しかし、薬価が高額なため、自己負担が大きく、喘息患者が可能な限り通院を我慢してしまうという傾向が、われわれの医療機関でも日常であった。
 ところが2008年8月、東京都の喘息医療費助成条例が発足すると、こうした喘息の重症患者が目に見えて減り、多くの患者が定期的に通院するようになり、適切な医学管理のもと良好な経過をたどるようになった。
 統計によれば、全国で1985年以降喘息死が最も多かったのが1995年の7000人以上であったが、2010年には約2000人に大きく減っている。今後、都の喘息医療費助成制度が全国に広がれば、この動きはさらに加速するに違いない。喘息死ゼロの実現は、決して夢物語ではないのだ。

●私たちが求める新たな救済制度

 2009年11月、日本環境会議尼崎大会は、「新たな大気汚染公害被害者救済制度の提言」を発表し、2010年5月、この「提言」を実施するよう環境省あて正式な申入れを行いました。
 私たちの求める救済制度は、この「提言」の示す以下の内容です。

新たな大気汚染被害者救済制度の提言

【提言の骨子】
 大気汚染被害者の救済のために従来の「公害健康被害の補償等に関する法律」(公健法)とは別に、新たに「医療費救済制度」及び「被害者補償制度」を創設すべきである。

  医療費救済制度の内容 被害者補償制度の内容
地域指定 自動車が集中、集積する地域で1988年以降の過半の年度でNO2又はSPM の環境基準を超えた、一般局のある行政区 昼間12時間の自動車交通量が4万台を越える幹線道路の沿道100mまでの地域
救済対象 指定地域に引き続き1年(3歳未満は6カ月)以上、居住又は勤務する者で気管支ぜん息、慢性気管支炎、肺気腫、ぜん息性気管支炎の罹患者 左と同じ
救済内容 上記4疾病とその続発症の医療費の自己負担分 公害健康被害の補償等に関する法律に準じた補償
費用負担 国、自治体、高速道路会社、自動車メーカー、燃料メーカー 左と同じ

〈注〉
地域指定:4万台以下であっても幹線道路が近接・集中している地域では、複数の道路による深刻な汚染があり、別途の判断が必要である。また今後、因果関係が明確になれば、これらの地域でも被害補償が考えられるべきである。
また、汚染物質について、さしあたりNO2とSPM を指標とするが、PM2.5の濃度測定が進めば、それを踏まえた補充を行うべきである。

【予算規模】
 医療費救済制度につき、上記対象地域における対象者(推計)に1人あたり医療費助成額(川崎市実績)を乗じて、単年度で予算規模は約103億円と推計される。

財源負担者の動向は

 財源負担者となる自動車業界、燃料業界の動向は、どうでしょうか。
 私たちが毎年取組んでいる公害被害者総行動の交渉で、「国が制度創設の方向というなら自工会としても考える」(自動車工業会総務統括部長)「財源負担について了解というスタンスは変わらない。経団連あるいは国が音頭をとって応分の負担を決めるのが、一番いいやり方ではないか」(石油連盟総務部長)と述べています。
 したがって今、何よりも求められているのは、制度創設に向けた国の決断です。